The Halloween of wizards.

お前たちは知らないだろう。
深い深い森の奥、月明かりだけが知る奇妙な屋敷に4人の魔法使いが住んでいることを。
朝陽を迎える頃には屋敷ごと雲隠れしてしまうと言うから、人間どもはFairy taleおとぎ話だと思っている。
私が誰かって?そうさな、Chatter Pumpkinとでも呼んで貰おうか。
この屋敷に古くから棲む、お喋り好きのスケアクロウさ。
時折、巷で人気のパッチーってやつと間違われるが、そんなに似ているのかね……?

毎年、ハロウィーンが近付くと、4人の魔法使いたちは沢山のお菓子を用意する。町の子供たちが『Trick or treat』と扉を叩いてくれるのを心待ちにしているのさ。そう、人間が大好きなんだ。
けれど、まだ一度も来訪者はない。気の毒な話さ。
「Mrチーキー、今年もまた性懲りもなく待つのかい?」
「やぁ、チャター・パンプキン。待たないよ、届けるんだ」
はて、痺れを切らして此方から出向こうというわけか。そうまでして人の子に近づきたいなど悪戯好きなチーキーのこと、何を企んでいるのか見張らなくてはなるまい。
「紅茶を淹れてくれる?チャター・パンプキン。ミルクとシナモンを利かせてね」
「なんだと?」
「あぁ、庭の落ち葉も掃かないと積もる一方だよ?よろしくね」
聞いたかね、この横柄な物言いを。
故に私は案山子の話を聞かず、案山子使いの荒いこの男をCheeky生意気と呼ぶのだ。まことの名があろうが、そんなことはどうだっていい。

芸術肌の彼は綺麗なものに好かれる。
蝶たちは我も我もと彼を慕い、こぞって髪飾りになりたがる。
花々は手折られるのを競って咲き誇り、冬を迎えてもかぐわしい香の堪えることはない。美の寵児はこの日も手入れの行き届いた華やかな庭に大きなイーゼルを立て、優雅に絵筆を取っていた。どれ、どんな絵を描いているのか、覗いてやろうじゃないか。
「Uh huh……お前さんときたら見る者の眼をくらまそうってのかい?この絵はデタラメだ。正方向が判りゃしない。逆さにしても横にしても正しくて間違っている。へそ曲がりの絵だ」
「正方向なんて必要ないよ。見る脳の数だけ見方があって、この絵はとても自由だろう?」
チーキーは空想家でこの通り奔放だが、時折、この可笑しな頭で周りを巻き込むんだ。そう、この屋敷の住人が起こすHappyな魔法は大抵、チーキーが仕掛け人だ。


突風が砂塵を巻き上げて、ドラゴンの声を聞いた。
Mrタシターンが町から戻ったらしい。使い魔のブタバナコウモリが屋敷中に報せて回る。
「お菓子づくりが始まるよ」
こうしちゃいられないと画材を放ったらかしで階段を駆け上がって行ったチーキーは、抱えきれないほど大きな荷物を持ったタシターンの頬にキスをする。両手が塞がっている内にと初めから狙っていたに違いない。チーキーが『こうしちゃいられ』なかったのは菓子作りではなく、大好きなタシターンに一刻も早く触れることだったのさ。まったく甘えたやつだ。
「おかえり」
首に齧りつくや小鳥が啄むようなキスをして、チョウウサギは恥ずかしさのあまり穴に隠れ、ヒカリガエルはピョンと壺の中へ飛び込んだ。
Taciturn寡黙と名付けたこの男は余りに無口で全く動じることを知らない。その堂々とした体躯に寸分隙間なくチーキーの納め処を知って胸に抱く。流石の私も眼の遣り場に困って背を向けた。

「Mrタシターン、また随分と買い込んだね?」
「Mrチャター・パンプキン、留守中、変わったことは有りませんでしたか?」
チーキーが何も言うなという眼をする。
「そうさね、何も無かったさ」
嗚呼、新調したばかりのホウキが折れたことも、フクロウたちの食事を忘れてストライキさせてしまったことも、その全ての元凶がチーキーだということも何にも無かったさ……。
「さぁ、お菓子を作ろう。ラッピングは俺に任せて。子供たちが手に取らずにはいられないワクワクするような贈り物を沢山つくるんだ」
はしゃぐチーキーの言葉にタシターンは、一度きり頷いただけだ。
材料の粉を投じて、タシターンは大きな壺を掻き混ぜる。
その傍でチーキーはプレゼントに色とりどりのリボンを掛けていく。
それはそうと、あとの二人は何処へ行ったのだろう……?
あぁ、いたいた。夜の配達に備えて今はグッスリと眠っているようだ。起こさないでいてやろう。



街灯りも今宵は一際、輝いている。
人の子たちが手を取り声を上げて『Trick or treat』と家々を回るから、どこの家も街灯を煌々と照らして迎え入れるのだ。
樹々をざわつかせる風の香りはバニラ。
けれど、月の光も届かないこの森には、やはり訪ねて来る者は無い。
「いい?日が昇るまでに帰ってきてよ。近頃、よくない魔法使いたちが横行している。人間を誑かしたり、亡者を使役する外道までいるって噂だ」
チーキーが不安そうに送り出しているのはMrアーネスト、その名の通り真面目でつまらない男だが気が優しく聡明な眼をしている。

「大丈夫だよ。売られた喧嘩を買うほど低脳じゃない」
「低脳が一緒だから心配なんだよ。ゆうべは喧嘩に巻き込まれて俺まで散々追い回されたんだから」
「ふふっ」
「笑い事じゃないんだけど……」
笑い声も控えめで品のいいアーネストは、もう一度「大丈夫だよ」と願掛けのようにチーキーを抱きしめた。
嗚呼、焦がれるのはその白く美しい透き通るような腕だ、肌理の細かな白磁のごとき肌だ。一度で良いから吸い付き齧ってみたいと思うが、番犬よろしく張り付いている目つきの鋭い男が私をこう脅すのだ。
『一指でも触れてみろ、真っ二つに割るぞ』
気が短く、Mrの敬称すら取っ払いたい荒くれ者にはshort‐tempered短気の名をくれてやった。earnest真面目はショッテンパードを頼りに思っているようだが、ハッ、ただの野蛮人さ。
「お前さんも変わり者だね、Mrアーネスト。チーキーと珍しく意見が合ったようだ。あの血の気の多い低脳が護衛で本当に大丈夫かね?」
「Mrチャター・パンプキン、お言葉ですが、あれほど腕の立つ男も他にないというものですよ」
「どうだかね……」
フェニックスがひらりと横切って、私は思わず両手で口を塞いだ。低脳ショッテンパードの使い魔だ。陰口が知れたら私に明日はない。
「焚き木にされたくなかったら口を噤むんだね、チャター・パンプキン?」
妖艶に口角を歪めたチーキーが小粋な猫の足取りで荷物運びに余念のないタシターンを手伝いに行く。子供たちへの贈り物が揃ったらしい。
「ふん、最初に低脳呼ばわりしたのは、お前さんじゃないか」
ふと、視線を感じて床を見下ろすと、彼の使い魔のヒカリガエルが物言いたげにギョロリと目玉を動かした。
「違うかね?」
同意を求めても愛想一つない。主に似て生意気なヤツだ。
「風はどうだ?」
と、奥から地を震わすような嗄れ声がして、ショッテンパードが足を踏み鳴らしやってきた。上背のある恵まれた体躯に大きな弓を背負い、埃っぽい衣服を整えもせず、空になった酒瓶を放り上げる。

「呆れた。飲んでいたの?」
アーネストの薄らと笑む唇が窓から差し込む月影に潤い、私は密かに身を焦がした。その純粋な恋心を嘲笑うような卑しさで、無作法なショッテンパードは私の前で清らかなアーネストの唇を奪ったのだ。
まるで所有物だと言わんばかりの傲慢な眼で私を嗤い、
「収穫祭だろ?新酒のゴキゲンを伺ったまでさ」
と、アーネストに微笑んだ同じ口で私にひっそりとこう言い放ったのだ。
「……身の程を知れ」
はらわたの煮えくり返りようもないこの案山子に向かって、何という暴言だろう。ホウキで尻を叩き、この体中の藁を毟り取って投げつけたところで、ショッテンパードの報復を思うと恐ろしくてならないのだ。おとなしくて優しいアーネストも脅されて身を委ねているのではあるまいかと、時折、心配になって寝所を覗くが、目敏いショッテンパードに直ぐ見つかって豪速の枕が飛んでくる。おかげで私は何度も骨折し(いや骨ではないが)
「凝りませんね」
と、幾たびタシターンに修復して貰っている……。
夜気が迫り、ショッテンパードが腕を突き上げた。
その腕の周りをフェニックスが躍るように旋回し、屋敷中に二人の出立を告げて回る。
「Mrチャター・パンプキン、それでは行ってまいります」
麗しいアーネストの声が私の心にをともして、やがて、バルコニーを飛び立った二人の姿は森の遠く闇へと吸い込まれて行った。


「タシターンよ、聞いているかね?タシターン……」
「聞いていますが、貴方がどうして藁案山子なのかとそうしょんぼりされても、俺には返す言葉も有りません」
「冷たい男だ……。どれ、チーキーと遊んでやろう。どうせ、退屈しているに違いない」
「……結局、暇なんですね」
ジャガイモの皮を剥いているタシターンはハロウィーンに食べるコルカノンを作っている。ケール入りのマッシュポテトをミルクで煮込み、バターと塩コショウで味を調え、茹でたベーコンと一緒に食べる伝統料理だ。
少し前までタシターンの邪魔ばかりしていたチーキーは吹きっ晒しのバルコニーでソワソワと森を眺めている。人恋しがりな可愛いところもあるのだ。やがて、
「帰って来た!」
と、大きな声がして、その時には既に気配を感じていたのだろう、タシターンの手許には二人を労うための温かいスープが二つ用意されていた。この辺りの気配りはソツのない男だ。
「……?いけませんね」
「どうした?タシターン」
天井を気にする彼を怪訝に思った転瞬、早鐘を凌ぐ靴音を立ててチーキーが飛び込んで来た。
「何があった?」
「平気、そこにいて!」
ホウキを取るや私を蹴り上げる勢いで飛び出していったチーキーは、どうやら小競り合いの加勢に出たらしい。バルコニーの方でドスンという音がしてタシターンと駆け付けて見れば、珍しく着地に失敗したアーネストがホウキを捨て、手摺りに引っ掛かったマントの端を忌々しそうに引っ張ったところだった。沢山の袋や花が散らばって、不穏な空を仰ぐ姿に怪我は無さそうだが……、
「何の騒ぎだい、アーネスト」
「ただいま、ミスター。テリトリー荒らしですよ」
風を切る音がして、屋敷の上空を矢を番えたショッテンパードが黒い影を追って飛ぶ。俊敏なチーキーは囮となって的を絞らせてはフイッと消え、あらぬところから飛び出しては攪乱させる。
「まるで曲芸師だね」
と感心した私の横で空を仰ぐタシターンも今にも飛び出しかねない様子だ。
「お前さんは出るんじゃないよ。今、屋敷を守れるのはタシターンしかいないのだから」
「ええ、解っています」
あまり解っている顔つきでは無かったが、明敏な男だ。時々の役割を瞬時に理解するという点では、この男ほど頼もしい者はない。
「日が昇る。向こうもそろそろ諦めるさ」
強か腰を打ったか、アーネストは擦りながら森を見たが、ふらふらと遠ざかる傾いた黒いものが突然、不自然に落下するのを見て溜息をついた。
「……やったね?」
「何のことです?」
「トボけてもダメだよ」
タシターンほどの優れた魔術の使い手なら、微動だにせずロックオンした標的を仕留めることは容易い。怒らせると一番、怖いのはこの男かもしれない。
頭上の騒ぎも鎮まったようだ。やれやれ、私の美しい庭は荒らされずに済んだし、4人の働きで大切に守り続けて来たこの屋敷は今度も難を逃れた。
「口ほどにもないヤツらだ」
「手古摺っておいて良く言うよ」
ショッテンパードとチーキーが軽口を叩きながら帰って来た。無傷だったのは上々、使い魔たちも安堵して平穏を取り戻す。
「皆、よくやってくれた」
と、両手を広げて迎え入れようと……、いや、迎え入れようと……、


「みんな、どこ行ったーーー?」

今しがたまでいたタシターンも散らかした花を拾っていたアーネストも、話し声はするが姿のないショッテンパードとチーキーも、誰も私を構う者などいないのだ……。
奥の部屋でワァと歓声が上がる。
花を銜えたフクロウが我関せず私の前を横切って、止まり木に落ち着くと目を瞑った。オモチャの車を押してきた二匹のヒカリガエルが遠巻きに私を見詰めている。チョウウサギはカップケーキを穴へ隠し、フェニックスは空へ昇ってスバングルの雨を降らせた。
私はLonely Pumpkinひとりぼっちのカボチャ、この屋敷に古くから棲む、ほんの少し寂しがりのスケアクロウ。バルコニーで風に吹かれ、静かな夜明けを眺めている。
目映い陽の光に反射して、キラキラ、キラキラと星型のスバングルが屋敷に降るさまは何とも夢のようで、私は4人の魔法使いたちの楽しげな声を聞いているだけで幸せな気持ちになれたのだ……。
「チャター・パンプキン、紅茶はストレートが好みだったよね?」
壁の向こうから顔を覗かせたチーキーがカップを手に、
「いつまでそうしているの?皆、待ってるよ」
と、口を尖らせる。
「そうかね」
「そうだよ。ミスターが揃わないとパーティーが始まらない」
「パーティー?」
うん、と頷いて、チーキーは早く早くと手招きをした。
「あのね『ありがとう』って言われたんだって。ありがとうって町の人たちが、お礼に花やお菓子やご馳走を沢山くれたんだって。いい言葉だよね、チャター・パンプキン」
「そうだな」
「それでね、その……いつも、ありがとう、Mrチャター・パンプキン。これからもよろしくね」
私は感激して震えたのさ。
チーキーがこんなことを言い出すなんて。嗚呼、明日には世界がどうかしちまうんじゃないかってくらい私は驚いて、ピョンピョン飛び跳ねたくなってしまったのさ。
「オモチャは使い魔にあげちゃったけど、早く見においでよ」
「混ざっていいのかい?」
仲のいい彼らに遠慮した私の物言いは卑屈に聞こえただろうか。一瞬、表情を曇らせたチーキーはクルリと背を向け、いつもの偉そうな調子でこう言った。
「仲間外れにされた子供みたいな拗ね方しないでよ。早く来ないと悪戯するぞ?」
やわらかな朝の情景も、この日は一際好もしい。
美しい花々で飾られた広い部屋の大きなソファーへ、四人の魔法使いたちは口々に私を招いてくれる。
皆の笑顔が見える。
無邪気に笑うチーキーの隣には悠然と笑むタシターンが、豪胆に哄笑するショッテンパードの向こうからはアーネストが慎ましく優しい微笑みで私を包み込んでくれるのだ。
嗚呼、幸せ者だ。
私は世界一、幸せな藁案山子だ。

朝陽は森を覆う深い深い霧を斜交いに照らして、
屋敷は人知れず姿を隠した。

May the magic of Halloween be with you.
                                                   

*thanks for all CC creators!
*skelly planter&cap @nolan-sims
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宙水(おきな)

★この記事を書いた人★
本館・創作BL小説サイト「Attic.」の物書き。シムズは未プレイ。
たかみんが創るシム画像に文章を添えたり、企画物で創作のお話を書いてる事が多い。
普段は本館でメインの創作BL小説を書いている。 好きなアイスのフレーバーはバニラ!
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