Bloody Night.♰🎃ハロウィン2018

弓張月の蜜色が森に注ぐ。今宵は外が騒がしい。
遠くで大きな破裂音がするたび、夜天に赤や黄色の花が咲く。人間どもは口々に、
「Happy Halloween!」
と歓声をあげ、とりわけ、やわらかそうな子供らは色とりどりの仮装を施し、
「Trick or Treat!」
と玄関の灯りを合図に家々を訪ねては、お菓子を貰ってはしゃいでいる。
「今夜は森の迷子も無いだろうよ」
「狩りに出るか?」
「無粋な」
「霧を起こして招き入れればいい。旨そうなガキをむざむざ逃すの?」
「堪え性の無いヤツだ。食らうなら俺を食らえ」
食らえと言われて、喉の渇きを覚える。
傍でニヤニヤと俺たちを見ている虎センパイは、
「気持ちは解るぜ、俊平」
と、口角を引いた。

「どうして、そんな眼で見るの?」
訊くまでもない。虎センパイが飢えているのは血走った眼で見てとれた。
「俺も空腹なんだ。ご相伴に与ろうと思ってな」
「去いね」
「仲良くしようぜ、俊平。少しくらい分けてくれてもコイツは死にゃしねぇだろ?」
「朝也を食らっていいのは俺だけだ」

「アンタは、あの死に損ないでも食らえば良いだろう?」
「艶夜のことか?」
「憐憫が聞いて呆れる。アレを半端者にしたのはアンタじゃないか」

「どうでもいいが、少し静かにしてくれないか?俺は眠りたいんだ」
「「……朝…、はい。……」」

                    ♰♰♰

いっそ、喉笛を噛み切って闇に引き摺り込んでやれば、四室艶夜は仲間になれた。
禁忌の森を彷徨い、境界を踏み誤った瀕死の人間をヒトのまま生かそうなど、藤丘虎は神にでもなったつもりか。歯牙を緩めた詰めの甘さが四室艶夜を人の世にも還れず、ヴァンパイアにもなれない躰にした。

ねぇ、どういう心境だい?死に損ないの美しい囚われ人。
生かされた褒賞に、その命果てるまで俺たちの糧となるかい?
それとも、
生かされた理不尽に、報復でも考えている?
化かしっこ、化かしっこ、楽しく過ごそうじゃないか……。

                    ♰♰♰

まさかとは、思ったんだ。
「艶夜……」

人間を愛するなんて思わなかった。

「少しだけ、齧っていい?」

肌理の細かい白い肌に歯牙の痕を付けるのが好き。
恐怖に身を震わせて俺の膝に爪を立てる痛みが快感。
何より、呻く声を押し殺す矜持がゾクゾクするほど艶めかしい。

「……っ!」
ヒュッと息を呑む音がして、艶夜が呼吸を絞る。
首筋に糸を引く鮮血を舌先で舐めとって、接吻ける間に傷は癒える。
「虎……?」

「いいんだよ。空腹だろう?……ほんと、人が好いんだから……」
「腹を満たすより、愛で満たされたい夜があったっていいだろう?」
「ぇ……と……」
「少し気障だったか?」
「ううん、今夜はベッドを朝也たちに譲る日だったろ?棺桶に二人は窮屈だなって思ったんだ」
「ぶっ……、ぁはははははっ……」
「そんなに笑うトコかな?」
「可愛いな、お前。……Kissしてくれる?」
「ん……、いいよ」

森で倒れている艶夜を見つけた時、俺はただ、助けたかった。
けれど、人間の救い方が解らない。
俊平は「ヴァンパイアにすればいい。単純な話だ」と云った。

ヒトとして生まれた艶夜に『永遠』を与えてしまうことに俺は怯えた。
けれど今は、ヒトであってヒトとして生きられずヴァンパイアでもない艶夜が何をどう考えているのか、独り懊悩するのか、俺は選択を誤ったのかと煩悶の日々だ……。

「くっそ、腹減った。後で生意気な俊平でも捕食するか……」

「ん、……俺、寝てた?」
「腹が満たされてから、ずっと」
「そ。良かったね。俺の綺麗な寝顔がたくさん見れて……」
朝也は、ただ笑う。
「『死に損ないの美しい囚われ人』そんな言い方をした俺は冷たいんだと思う。折角、皆で艶夜さんを生かしたのに、それが正しかったのか今でも判らないんだ……」
「どうした」
「ううん、そんな夢を見ただけ……」

闇が重い……。
火照った躰に朝也の冷たい皮膚が心地よくて、ドク、ドク、ドクと脈打つ音にゴクリと喉が鳴る。
瞼を開くのすら億劫で、朝也の血の匂いをたっぷりと求めたところで、はたと気が付いた。

「お前、血の匂いが薄い。……与えてやるよ」
朝也の眼の奥が月光を盗んだように清かに煌く。
この俺に相応しい宝石だと思う……。
「いい?朝也が餌にしていいのは俺だけだよ」
「馬鹿を言うな。お前が持たねぇよ」
「食らい尽くせばいい。他のヤツに歯形一つ残してみろ。そいつを葬ってくれる」
「お前は遣りかねないから、手に負えねぇな」
「絶対だ」
朝也は頷く代わりに薄らと笑った。

「それじゃ、ベッドへ行こうか」

「食事は、ゆっくり愉しみたいからな……」

I hope vampires will not attack us on Halloween.
(ハロウィンの夜にヴァンパイアに襲われませんように……)

                      Fin.

                                                                                                        Thanks all CC.creators!
pose by Ennie , Rinvalee

宙水(おきな)

★この記事を書いた人★
本館・創作BL小説サイト「Attic.」の物書き。シムズは未プレイ。
たかみんが創るシム画像に文章を添えたり、企画物で創作のお話を書いてる事が多い。
普段は本館でメインの創作BL小説を書いている。 好きなアイスのフレーバーはバニラ!
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